映画『ミスミソウ』と白雪姫

※まず、この記事は映画『ミスミソウ』について言及していますが、私は原作の漫画版『ミスミソウ』は未読です。ご了承の上、お読みください。

鬱映画として名のある『ミスミソウ』。私も何度か観ているが、ストーリーや描写が初版の白雪姫をモチーフにしているのでは?と思う箇所が多いため、言及していきたい。

まずは今日親しまれている白雪姫と初版の白雪姫の相違点について。白雪姫には初版と手稿があり、厳密には多少異なるのだが当記事では一括して初版と表す。

相違点は、継母が狩人に白雪姫を殺させるエピソードがない・継母が最後に焼けた靴を履かされ死ぬまで踊る、等多々あるが、今回重要なのは王子様が今日のストーリーのように優しくロマンチックな人間ではなく、ガラスの棺に入った白雪姫を城で一日中見つめる・棺が横にないと食事も食べられないといったかなり激重メンヘラチックな性格の持ち主であることだ。これだけで、私が言わんとすることをお察しの方もいるかもしれない。

次に、キャラクターとその配役を当てはめてみる。

まず主人公野咲。彼女は言うまでもなく、白雪姫だ。白雪姫は、お妃に「黒檀のように黒い髪、雪のように白い肌、血のように赤い唇」を持って産まれてくるように願われている。この特徴は、野咲の見た目と合致する。特に、唇から血を流した野咲と相場のキスシーンを思い浮かべるとわかりやすいだろう。野咲もまた黒髪、色白の肌、血で濡れた唇と真っ赤な服を身につけているのだ。またキャラクターとは無関係だが、作中で何度も舞台として登場する雑木林。こちらも真っ黒な木、飛び散る鮮血の赤、そして積もった雪の白とお妃の願いを彷彿とさせる描写だろう。

次に野咲へのいじめの主犯格、妙子。彼女は、白雪姫を殺そうと企む意地悪な継母だ。野咲に対する殺意がなくむしろ強い好意を持つ点で本来の継母の性格とは異なるが、野咲への歪なまでに強い愛情は白雪姫の生みの親、対照的に彼女に苛烈ないじめをするよう仕向ける憎しみは継母と、白雪姫の2人の親の愛憎を表現しているキャラクターなのかもしれない。

そして野咲家への放火に加担したクラスメート達。こちらは人数を数えてもぴったりである通り、7人の小人だ。白雪姫に害をなす存在であることが、本来のストーリーとは異なる。

最後に野咲に対する異常な執着を見せる同級生、相場。彼は冒頭でも触れた通り、白雪姫に歪んだ愛情を持つ王子様である。彼のキャラクターは最も強く初版の描写を反映していると言ってもいいかもしれない。ハッピーエンドである白雪姫の物語とは違い、野咲と幸せになることはなく逆に殺されてしまうのがより絶望的である。王子様は異常性癖だったなどという説もあるが、流美を笑顔で殴りつける相場を見ていると納得できてしまう。

これらの事から、『ミスミソウ』は初版の白雪姫のストーリーをオマージュして作られた作品ではないかと考察した。初版の白雪姫の情報はすべてWikipedia参照なので、一度目を通してみると面白いかもしれない。また、ひとしずく×やま△作曲の『赤と白と黒の系譜』という曲。こちらも初版白雪姫をリスペクトした作品であり、『ミスミソウ』とも通ずる部分が多いのでぜひ聴いてもらいたい。

初版の白雪姫の物語を頭に入れてこの作品を見ると、また違った視点で楽しむことができるかもしれない。